医療と福祉、その先にあるもの 〜北大担当教員が語る実習の意義と未来〜
こんにちは!社会福祉法人ろく舎です。
これまで3回にわたってお届けしてきた北大歯学部実習プロジェクトのレポート。
今回は特別編として、プロジェクトを担当されている北海道大学大学院歯学研究院 高齢者歯科学教室の先生方に、インタビューにお答えいただきました!
2年間の実習を振り返って感じられたこと、医療と福祉の連携への想い、そしてこれからの展望。
先生方の言葉を通じて、このプロジェクトの深い意義が見えてきます。
継続することで見えたもの 1年目から2年目へ
2年目を迎えた今年度、実習内容は大きくバージョンアップしました。言語聴覚士による講義、口腔機能低下症の講話、そして『共に食事をとる』実践的なプログラムが加わり、より深い学びの場となりました。


「コロナ禍の非対面実習では、学生たちが要介護高齢者の実際を肌で感じることが難しく、もどかしさを抱えていました。しかしろく舎様にご協力いただき現場での実習が実現した1年目から、学生一人ひとりの実習に向き合う真剣な眼差しへの変化をはっきりと感じることができました」
「2年目となる今年度は、1年目の基盤を活かしながら内容をブラッシュアップできたことで、高齢者施設でのケアの実際についてより理解が深まり、実習内容がさらに洗練されてきたと感じています」
継続することで生まれた信頼関係と、そこから育まれた学びの深まり。先生方の言葉からは、このプロジェクトが単なる「見学」を超えた、本質的な学びの場へと進化していることが伝わってきます。
食べることを支える歯科医療|実習内容の狙い
今年度、特に力を入れたのが『食事場面』の実習です。学生たちは刻み食やとろみ飲料を自分たちで準備し、利用者様と同じ席で食事をともにしました。

なぜ、ここまで『食事』にこだわったのか。その理由を、先生はこう語ります。
「これからの歯科医師には、単に『歯を削って治す』だけでなく、『食べる機能』を総合的にサポートする役割が強く求められます。特に高齢者の生活の質(QOL)を考えた際、従来の歯科治療の枠組みを超えたアプローチが不可欠となる場面が多々あります」
「今回、実習内容をバージョンアップした最大の狙いは、歯科医療の最終目標である『食事』の現場を学生に直接肌で感じてもらうことでした。そして、治療だけでなく『予防』や『日常のケア』という概念がなければ口腔機能は維持できないことを深く理解してほしかった」
実際に現場を体験した学生たちからは、「刻み食やトロミ食の準備が想像以上に大変で、介護スタッフの方々のご苦労を実感した」「現場での口腔ケア指導の難しさを痛感した」といった感想が寄せられたといいます。
「この実習での経験は、学生たちが今後の歯科医師人生において壁にぶつかり、悩んだ際の大きな糧になると信じています」
医療と福祉の連携 ”地域包括ケア” における歯科の役割
歯科医療と介護現場が連携する意義について、先生はこう語ります。

「歯科医療と介護現場が連携する最大の意義は、口腔の問題を単なる『歯の問題』としてではなく、『食べること』『話すこと』『生活を続けること』に関わる問題として捉え直せる点にあると考えています」
「介護職員の皆様は、日々の食事場面や会話、表情、覚醒状態の変化を最も身近で見ておられ、その気づきは歯科医師だけでは得られない極めて重要な情報です。一方で、歯科側が専門的な評価と介入を行うことで、誤嚥性肺炎の予防、栄養状態の維持、疼痛の軽減、そしてご本人の尊厳を守る支援につなげることができます」
多職種連携において大切にされていることについても、具体的に教えてくださいました。
「多職種連携で最も大切なのは、それぞれの職種が持つ専門性を尊重しつつ、目的を常に『ご本人のよりよい生活』に置くことだと考えています。歯科の立場から見えていることと、介護・看護・リハビリの現場で見えていることは良い意味で異なる点も多い」
「連携は一度会議をすれば終わりではなく、日々の小さな気づきを継続的にやり取りできる関係性の上に成り立ちます。『相談しやすい』『すぐに声をかけられる』雰囲気をつくること、そして結論だけでなく判断の根拠も共有することが、良い連携につながると感じています」
職員研修を振り返って 〜現場との双方向の学び〜
今年1月には、ろく舎の職員向けに口腔ケア研修も実施してくださいました。テーマは『口腔衛生管理』と『口腔機能管理』の2つの視点です。


「口腔ケアと一口に言っても、大きく分けて『口腔衛生管理』と『口腔機能管理』の2つの側面があります。以前は、ブラッシングや保湿といった『口腔衛生管理』の側面ばかりがクローズアップされがちでしたが、現在では、それに加えて、食べることや飲み込むことなど、適切な栄養摂取に直結する『口腔機能管理』の側面が非常に重視されるようになっています」
「現場の介護職員の皆様には、この『衛生管理』と『機能管理』という2つの視点を併せ持つことの重要性をお伝えしたかった。その上で、ご利用者様お一人おひとりの介護度に応じた、適切かつ実践的な口腔ケアについて深く理解していただきたいと考えました」
研修を終えての率直な感想も語ってくださいました。
「お伝えしたい内容が非常に多岐にわたってしまったという反省点があります。専門的で少し難しい部分も含まれていたため、戸惑わせてしまった場面があったかもしれません」
「一方で、『口腔衛生管理』と『口腔機能管理』という2つの重要な側面があることや、口腔内および咽頭の解剖学的構造など、口腔ケアの根底にある『理論』を体系的にご説明できたことは、現場の皆様にとって有意義だったのではないかと思っています」
「現場の方々にお伝えしたいことはまだまだ山のようにあります。今回の経験も活かし、今後も皆様の力になれるよう、より一層わかりやすい情報発信に努めていきたいという思いを強くしています」
これからの展望|重度介護・看取り実習、そして未来へ
この春からは、新たに『重度介護・看取り』の現場での実習も予定されています。この実習にかける想いを、先生はこう語ります。
「重度介護や看取りの現場においても、歯科医療の役割は決して小さくありません。終末期になると、『治す医療』の比重は相対的に小さくなる一方で、口腔内の清潔保持、乾燥や疼痛の軽減、わずかでも安全に食べる・味わうことの支援など、歯科が貢献できる領域はむしろ非常に本質的になります」
「この実習の意義は、学生たちに『歯科医療は人生の最終段階にも寄り添う医療である』ことを実感してもらうことにあります。口から食べること、話すこと、笑顔を保つこと、そして穏やかに過ごすことを支える歯科の役割を、現場でこそ深く学べると考えています」
学生たちに学んでほしいこととして、こう続けます。
「重度介護や看取りの場では、教科書的な正解をそのまま当てはめるのではなく、ご本人の全身状態、意向、ご家族の思い、ケアの目標を踏まえて支援を組み立てる必要があります。そこでは、治療技術そのもの以上に、観察力、想像力、そして相手の尊厳を守る姿勢が問われます」
「『できることを増やす』だけでなく、『苦痛を減らす』『その人らしさを守る』ことも医療の大切な役割であると理解してほしい。歯科が関わる意味を、機能面だけでなく倫理的・人間的な側面まで含めて捉えられるようになってほしいと願っています」
そして、プロジェクト全体の今後について
「今後は、このプロジェクトを単発の実習ではなく、『講義 ー 現場体験 ー 振り返り ー 次の学び』が循環する、より体系的な教育プログラムへ発展させていきたいと考えています」
「3年目以降は、学生の学びだけでなく、施設職員の皆様との相互学習や、地域における実践モデルとしての発信も視野に入れています。ろく舎様とともに積み重ねてきたこの取り組みを、北海道から発信できる『医療と福祉の連携教育モデル』として育てていければ非常に意義深いと考えています」
全国の介護職員の皆様へ 〜先生からのメッセージ〜
最後に、全国の介護職員の方々へ向けたメッセージをいただきました。
「全国の介護職員の皆様にまずお伝えしたいのは、日々の口腔ケアや食事介助、そして何気ない観察といった皆様が行ってくださっている積み重ねが、ご利用者様の健康と尊厳を支える極めて重要な実践であるということです」
「口の中の小さな変化、食べ方のわずかな変化、表情や反応の違いに最初に気づけるのは、毎日関わっておられる現場の皆様です。その気づきが、誤嚥性肺炎の予防や栄養状態の維持、さらには『最期までその人らしく生きること』を支える大きな力になります」
「医療と福祉は、本来別々のものではなく、同じ一人の生活者を支えるための両輪だと考えています。今回のプロジェクトを通じて、歯科が現場から学ばせていただくことの多さ、そして連携によってできることの大きさを改めて実感しました」
「何か困ったことがあればぜひ歯科職種にも声をかけてください。私たちも、皆様とともに『食べること』『話すこと』『笑うこと』を支える伴走者でありたいと思っています」
おわりに


2年間の実習を通じて育まれてきた、医療と福祉の深い連携。
先生方の言葉からは、単なる『教育プログラム』を超えた、地域全体で人を支える未来のモデルづくりへの熱意が伝わってきました。
医療と福祉が手を取り合い、”一人ひとりの生活を支える” その実践が、ここ札幌から始まり、そして新たなステージへと進んでいきます。
今月から『重度介護・看取りの現場|海陽亭』での実習がスタート致します。また改めて実習の内容や様子などご紹介していきます。どうぞお楽しみに!
【シリーズ記事一覧】
・第⼀弾(2026 年度)|継続する学びの輪 〜北⼤⻭学部実習プロジェクト第⼆回⽬スタート〜
・第⼆弾(2026 年度)|⻭科医に学ぶ⼝腔ケア 〜尾崎先⽣による職員研修レポート〜
・第三弾(2026年度)|より実践的に、より深く〜2026年度 北大歯科学生実習レポート〜
第1回目2025年度版の記事はコチラから
・第一弾|医療と福祉の架け橋 〜北海道大学歯科学部実習プロジェクト〜
・第二弾|現場で学ぶ口腔ケアの実践 〜実習の1日を振り返って〜
・第三弾|出会いの不思議、連鎖する人のご縁 ~プロジェクト実現への道のり~
・第四弾|未来の歯科医師たちの声〜インタビュー特集〜
・第五弾|関わった職員の声〜双方にとっての学びの場となりました〜


